よさこい生態学セミナーQ&A 回答
オーサキです。
先週の5/26 (火)に講演した「よさこい生態学セミナー」では
たくさんの方々に興味を持っていただきありがとうございました。
そして、なんと、
講演を聞いてくださったshorebirdさんが講評を書いてくださいました。
講演に聞けなかった方もこれを読めば丸わかり!というくらい、
詳細にまとめてくださっています。ぜひご覧ください。
講演中に多くの質問をいただき、Q&Aが捌ききれなかったので、
今回すべての質問への回答を書きました。
講演で回答したものも含めております。
複数来た同義の質問は1つにまとめています。
では回答33連発どうぞ!
翅の食い合い前に関連する質問
1.
適応度とは、簡単にいうとどういうものですか?
2.
本筋からずれちゃいますが、子供に巣立ちの時期があるんだろうと思いますが、(1)いつ頃なのでしょうか?(2)同年のブルードが同じ時期に一斉に巣立ちするのか、あるいは別々に巣立ちするんでしょうか?
3.
どうやってペアとなる相手を選抜しているのでしょうか?
4.
ペアが出会う場所、交尾が行われる場所、翅を食べ合う場所はどこになりますか?将来、子育てをする材に潜ってから、になるのでしょうか?
5.
翅の食い合いが起こる前のペアを卒業研究の材料として使っていたかと思ったのですが、野外で採集してきた際にペアかどうかを判別できるのでしょうか?
6.
基本的な質問なんですが,ゴキブリは頻繁に羽をつかって飛ぶのですか?
翅の食い合いの最中に関する質問
7.
落ちた翅を自分で食べることはありますか?ペア以外の落ちた翅を食べることはありますか?
落ちた翅は、相手の翅だけでなく自身の翅であっても食べます。
ペア以外の個体の翅は食わせたことがありません。
エサ不足状態だと、新成虫の翅がコロニーの親や同胞(兄弟姉妹)に食べられてしまうことがありますが、新成虫も同胞の新成虫の翅を食べるかは確認できていません。
個人的には食べちゃうような気もしています。でもその場合、その後の子育てに影響がどう出るかはまた予測不能ですね。将来余力ができたらやってみたいです。
8.
翅には栄養価があるのですか?他種のゴキブリと比較して、クチキゴキブリの翅を構成する成分として独特であるとわかっているものはございますでしょうか。また、クチキゴキブリの消化器官で翅は非常によく消化されるのでしょうか。
翅の栄養はもしあっても量は少ないので、翅の食い合いが栄養を得たいからというだけで進化するとは考えにくいと思っています。
まだ翅の成分分析まで手が回っていません。手始めに翅のC/N比などは測定してみてもいいかなと思っています。
しかし、翅は非常に消化されにくいようです。翅を食べた後のフンの中には、翅がくしゃくしゃになって入っています。
よって、翅の大半は消化できないけれども翅にしかない少量の特殊成分を得る・得させるのかもというくらいしか、翅を食べる意義としては考えついていない現状です。何かアイディアがあれば是非コメントください。
9.
相手のクオリティ(大きさや肥満度等)に応じて、拒否行動の頻度が多くなったりしますか?「拒否」のあとは、何かしらの間が開いたあと再度差し出すのでしょうか?もしくは「拒否」で何かを見定めたあと(コミュニケーション取れないやつだとか…)離婚的なことはあるのでしょうか?
体サイズ・体重と拒否されやすさには今のところ関係がなさそうです。
体サイズや体重といった指標が彼らにとっての相手の質と合致しているかという問題もあります。
ちなみに、シロアリでは(分類ではシロアリは真社会性ゴキブリという位置づけなので、事あるごとに先行研究豊富なシロアリと比較していきます)脂肪体が多く産卵数の多いと予想されるメスがオスに選ばれやすいそうです。
拒否の後も、また差し出します。これまでのところ、どちらかの個体が逃げ出してペアが解消されたのは見たことがありません。
10.
食べる際に口から分泌物があり(フェロモンなど)、それを指標に配偶相手を認識している可能性はありますか?
食べる際に口から何か出ているのを目視で観察できたことはないですが、あったら面白いと思います。
相手の認識機構がどうなっているのか分かっていないので、あり得るかもしれません。しかし、彼らの個体群密度を想像すると、相手以外にも多くの他個体がいる状況にあることはあまり考えられないので、個体識別するような淘汰圧が働いていない可能性もあります。この場合は他の社会性昆虫同様に体表炭化水素を利用しているのかもしれません。
11.
同性同士で羽を食べあうことはないんでしょうか?同性のライバルの翅を食べることはありますか?
過去にメス同士、オス同士を1ペアずつ観察したことがありますが、どちらも食べ合いませんでした。更に、オス同士では、普段は見られない頭突きなど非常に攻撃的な行動をして相手を追い払うなどしていましたので、シロアリのように同性ペアを作ることもないのかもしれません。
12.
翅をオスメス両方cutしたものをペアとして入れた場合でも後尾は成功するのでしょうか両方とも羽を切って羽のやりとりがない場合はどうなるのでしょう?子育てしなくなるなどの影響とかあるんでしょうか。。。
翅を食う前に交尾はするので、交尾は成功しそうですね。
片方の性の翅を切断した実験で、その後の飼育に成功したコロニーは2コロニーしかいなかったのですが、この2コロニーでは問題なく幼虫が育っているように見えます。
彼らは若干成長が遅い気もしますが、当時は飼育がまだうまく行っていなかったので、その影響のほうが大きそうです…。
13.
羽以外の器官を食べることはないのでしょうか
ないです。
14.
交尾前に十分な餌を与えても翅の食い合いは起こるのでしょうか?
起こります。
15.
相手の適応度を上げてあげるだけならば、食べずに切り取るだけでもいいのでは?もしくは女王アリのように自分で羽をきってしまうとか。
相手の適応度を上げるルートが複数考えられるのです。切り取るだけで得られる効果と、食べなければ得られない効果があるはずです。そのどちらが(もしくはどちらも)適応度の上昇に影響しているかはまだ絞りきれないので、「食べずに切り取るだけでもいい」と決めつけることはできません。
しかし、自身で翅を落とすようになぜ進化していないのかについては考察する必要があると思います。アリ、シロアリよりも体重の重いゴキブリが飛べるように翅の強度をもたせるためには自切線を発達させられなかったとか、相手に食わせたほうがいい影響があるとかの可能性が考えられます
16.
哺乳類を去勢すると神経伝達物質の放出量が変化して、個性が変わったりしますね。ゴキブリも羽根を切るとそのような効果があったら面白いです
こういうこともあり得ると思います。 翅を食うor食われると、ペアボンドが協力になる or 子育てに投資するように生理的に変化するなどあるかもしれません。まだまだ妄想ですが。
翅の食い合い後に関する質問
17.
数回出産というのは、ペアになった年に何回か卵を生むということでしょうか?ペアになった翌年もその次も生むということでしょうか?
交尾したその年に2~3回、その翌年以降も同じ位のペースで子を産むようです(卵胎生なので卵は産まず、ゴキブリの姿で母親から出てきます)。
18.
一夫一妻制と言われていますが、どうやって調べられたのでしょうか?途中で配偶者が亡くなった場合、再婚する可能性あるのでしょうか。特にメスが多回交尾している可能性が気になります。
一夫一妻であるだろうと推測されているだけなので、現在オーサキがマイクロサテライトマーカーを作成中です。
オスに出会うまでにメスが他のオスと交尾していない保証はまだないので、こちらも調べたいと思っています。しかし、もしメスが複数のオスと交尾しているのに、オスとメスが子育て(給餌)を同程度負担している(cf. 近縁種の先行研究 Shimada et al. 2011 )ということなら、これまでの研究と違ってまた面白いです。
1例しか確認できていないのですが、今年親がオス親のみだったコロニーを採集してきて、飼育中にメス幼虫が成虫になったのに気づかず放置していたところ、そのメスは翅がなくなり、その後平均の半数ほどの子を産みました。野外でもこれが起こるのかはマイクロサテライト解析しないと分かりませんが、シロアリのように子が欠員の出た親のポストに入っている可能性があります。
19.
交尾後に雌雄を引き離した場合どうなるでしょうか?
20.
翅を食われた後の個体は素早くなったり、身体が大きくなったりの変化はあるのでしょうか。
21.
交尾後に飛翔筋は退化しますか?
22.
翅を食べた後の交尾行動、生殖器官の発達、出産などに必要な時間(日数)にパターンはありますでしょうか?
23.
交尾後も翅が食べられなかったら、別の相手とも交尾しようとしますか?
24.
すでに繁殖してるペアのコロニーに第三者が入ってきたらどうなるんですかね?
25.
翅を食べなければ産卵に至らないのでしょうか?
26.
メスの翅を食べてないオスは子育てに参加しないとかありますか?
27.
飛翔能力を失うことでの適応度の低下の影響は少ないのでしょうか。交尾相手を探したあとは不要になるのですか?
28.
同じ木の中には1つのつがいしか見つからないのですか?
29.
なぜ雄が交尾後再び別の雌を求めて移動しないのかという点が気になりました。雌雄ともに子育てをするということも両者が翅を食べあうこともその要因がわかれば説明できるような気がします。
その他
30.
近縁のシロアリと生活史がよく似ていると感じました。シロアリはタンデムすると頃に翅を切り落としますが、その資源を確保して有効活用している印象です。シロアリとの系統関係からの進化的な見解を聞かせてもらえると嬉しいです。
ゴキブリ目の中では、シロアリの属するキゴキブリ科とクチキゴキブリの属するオオゴキブリ科はかなり遠いです(最初の分岐で科が別れてしまう)。なので系統が近いからというより、朽木の中などの閉鎖的な空間に生息するという生態が似ていることからの収斂と考えられます。
31.
素朴な疑問なのですが、逃避行動用の尾葉は無いのでしょうか尾角(cercus)のことでしょうか。ありますよ。
しかしクロゴキブリなどのものより遥かに短く、小籠包がおしりに2つ乗っかっているみたいな感じです。尾角は空気の振動を受容する感覚器官で、逃避行動以外にも使われます。
32.
同じく朽木食で子育てもするオオゴキブリでは翅は食い合わないのでしょうか?
33.
対象種や近縁種のゴキブリについての詳しい説明があるともっと分かり易かったです。
例: 幼虫期間はどれくらい?、近縁種の生活史は?
日本にはクチキゴキブリが2種生息しています。
九州〜屋久島に分布、短翅型でもともと飛べない、翅の食い合いもしないとされている
回答を終えて
一層頑張ろうと励まされました。
完成したらオーサキのYoutubeにアップしますので、今しばらくお待ち下さい。