知の創造

Haruka OSAKI's Blog

よさこい生態学セミナーQ&A 回答

f:id:h-fabre:20200601190314j:plain


オーサキです。

先週の5/26 (火)に講演した「よさこい生態学セミナー」では
たくさんの方々に興味を持っていただきありがとうございました。

 

そして、なんと、
講演を聞いてくださったshorebirdさんが講評を書いてくださいました。

講演に聞けなかった方もこれを読めば丸わかり!というくらい、
詳細にまとめてくださっています。ぜひご覧ください。

shorebird.hatenablog.com

 

講演中に多くの質問をいただき、Q&Aが捌ききれなかったので、
今回すべての質問への回答を書きました。

講演で回答したものも含めております。
複数来た同義の質問は1つにまとめています。

 

では回答33連発どうぞ!

 

 

翅の食い合い前に関連する質問

1. 
 適応度とは、簡単にいうとどういうものですか?
学部の学生さんからの質問でしょうか。発表で解説なしに用語を使ってしまいました。
生態学の教科書など見ていただければ詳しい解説があると思うので簡単に回答します。ある個体の適応度とは「生産した繁殖可能な子供の数」です。
生物は環境や状況に適応し、子を多く残せた個体の子孫が現在まで残っているわけですね。
 
2.
本筋からずれちゃいますが、子供に巣立ちの時期があるんだろうと思いますが、
(1)いつ頃なのでしょうか?
(2)同年のブルードが同じ時期に一斉に巣立ちするのか、あるいは別々に巣立ちするんでしょうか?
(1)5~6月です。ちょうど今頃ですね。
(2)この2ヶ月ほどの間に羽化した個体(同ブルードの個体であることが多いと思います)から随時パラパラと巣立つのだと考えています。アリやシロアリのように一晩に一斉にというわけではありませんが、大体時期は決まっています。
 
3.
どうやってペアとなる相手を選抜しているのでしょうか?
分かっていません。一夫一妻ならばかなり厳しく配偶者選択をしていると考えられるのですが、実家である朽木を出てから、自身の所帯を持つまでの新成虫の生活史は全くの未解明です。「夜間&やんばるのハブ」の2タッグによって阻まれている状況です。是非これから定点カメラやロガーなどを駆使して暴いていきたいですね。
 
ちなみに昨年、翅のある新成虫のオスとメスを実験室(元は教授の部屋)に張った蚊帳の中で自由に歩かせるという試みを実行しましたが、両者が出会わず、失敗に終わりました。
 
4.

ペアが出会う場所、交尾が行われる場所、翅を食べ合う場所はどこになりますか?将来、子育てをする材に潜ってから、になるのでしょうか?

これも野外生態が未解明なので分かっていません。ただ、交尾で結合して動けない時間が約1時間あるので、交尾は朽木に穴を掘るなど安全な場所で行うのではないかと考えています。
 
5.
翅の食い合いが起こる前のペアを卒業研究の材料として使っていたかと思ったのですが、野外で採集してきた際にペアかどうかを判別できるのでしょうか?
発表では説明しませんでしたが、野外でペアを採集してくるのではなく、終齢幼虫を含むコロニーを採ってきています。実験室で終齢幼虫が成虫に羽化したら翅の食い合いの実験に使います。このほうが野外でペアを採ってくるよりも個体ごとの条件を統一できるためです。
 
6.
基本的な質問なんですが,ゴキブリは頻繁に羽をつかって飛ぶのですか?
頻繁には飛びません。おそらく繁殖期の飛翔分散という長距離移動でしか使わないのではないかと考えています。
 

翅の食い合いの最中に関する質問

7.
落ちた翅を自分で食べることはありますか?
ペア以外の落ちた翅を食べることはありますか?

落ちた翅は、相手の翅だけでなく自身の翅であっても食べます。
ペア以外の個体の翅は食わせたことがありません。

エサ不足状態だと、新成虫の翅がコロニーの親や同胞(兄弟姉妹)に食べられてしまうことがありますが、新成虫も同胞の新成虫の翅を食べるかは確認できていません。
個人的には食べちゃうような気もしています。でもその場合、その後の子育てに影響がどう出るかはまた予測不能ですね。将来余力ができたらやってみたいです。

 

8.
翅には栄養価があるのですか?
 
他種のゴキブリと比較して、クチキゴキブリの翅を構成する成分として独特であるとわかっているものはございますでしょうか。
また、クチキゴキブリの消化器官で翅は非常によく消化されるのでしょうか。

翅の栄養はもしあっても量は少ないので、翅の食い合いが栄養を得たいからというだけで進化するとは考えにくいと思っています。

まだ翅の成分分析まで手が回っていません。手始めに翅のC/N比などは測定してみてもいいかなと思っています。

しかし、翅は非常に消化されにくいようです。翅を食べた後のフンの中には、翅がくしゃくしゃになって入っています。

よって、翅の大半は消化できないけれども翅にしかない少量の特殊成分を得る・得させるのかもというくらいしか、翅を食べる意義としては考えついていない現状です。何かアイディアがあれば是非コメントください。

 

9.
相手のクオリティ(大きさや肥満度等)に応じて、拒否行動の頻度が多くなったりしますか?
「拒否」のあとは、何かしらの間が開いたあと再度差し出すのでしょうか?もしくは「拒否」で何かを見定めたあと(コミュニケーション取れないやつだとか…)離婚的なことはあるのでしょうか?

体サイズ・体重と拒否されやすさには今のところ関係がなさそうです。

体サイズや体重といった指標が彼らにとっての相手の質と合致しているかという問題もあります。

ちなみに、シロアリでは(分類ではシロアリは真社会性ゴキブリという位置づけなので、事あるごとに先行研究豊富なシロアリと比較していきます)脂肪体が多く産卵数の多いと予想されるメスがオスに選ばれやすいそうです。

拒否の後も、また差し出します。これまでのところ、どちらかの個体が逃げ出してペアが解消されたのは見たことがありません。

 

10.

食べる際に口から分泌物があり(フェロモンなど)、それを指標に配偶相手を認識している可能性はありますか?

食べる際に口から何か出ているのを目視で観察できたことはないですが、あったら面白いと思います。

相手の認識機構がどうなっているのか分かっていないので、あり得るかもしれません。しかし、彼らの個体群密度を想像すると、相手以外にも多くの他個体がいる状況にあることはあまり考えられないので、個体識別するような淘汰圧が働いていない可能性もあります。この場合は他の社会性昆虫同様に体表炭化水素を利用しているのかもしれません。

 

11.
同性同士で羽を食べあうことはないんでしょうか?
同性のライバルの翅を食べることはありますか?

過去にメス同士、オス同士を1ペアずつ観察したことがありますが、どちらも食べ合いませんでした。更に、オス同士では、普段は見られない頭突きなど非常に攻撃的な行動をして相手を追い払うなどしていましたので、シロアリのように同性ペアを作ることもないのかもしれません。

 

12.
翅をオスメス両方cutしたものをペアとして入れた場合でも後尾は成功するのでしょうか
両方とも羽を切って羽のやりとりがない場合はどうなるのでしょう?
子育てしなくなるなどの影響とかあるんでしょうか。。。

翅を食う前に交尾はするので、交尾は成功しそうですね。

片方の性の翅を切断した実験で、その後の飼育に成功したコロニーは2コロニーしかいなかったのですが、この2コロニーでは問題なく幼虫が育っているように見えます。
彼らは若干成長が遅い気もしますが、当時は飼育がまだうまく行っていなかったので、その影響のほうが大きそうです…。

 

13.

羽以外の器官を食べることはないのでしょうか

ないです。

 

14.

交尾前に十分な餌を与えても翅の食い合いは起こるのでしょうか?

起こります。

 

15.

相手の適応度を上げてあげるだけならば、食べずに切り取るだけでもいいのでは?もしくは女王アリのように自分で羽をきってしまうとか。

相手の適応度を上げるルートが複数考えられるのです。切り取るだけで得られる効果と、食べなければ得られない効果があるはずです。そのどちらが(もしくはどちらも)適応度の上昇に影響しているかはまだ絞りきれないので、「食べずに切り取るだけでもいい」と決めつけることはできません。

しかし、自身で翅を落とすようになぜ進化していないのかについては考察する必要があると思います。アリ、シロアリよりも体重の重いゴキブリが飛べるように翅の強度をもたせるためには自切線を発達させられなかったとか、相手に食わせたほうがいい影響があるとかの可能性が考えられます

 

16.

哺乳類を去勢すると神経伝達物質の放出量が変化して、個性が変わったりしますね。ゴキブリも羽根を切るとそのような効果があったら面白いです

こういうこともあり得ると思います。 翅を食うor食われると、ペアボンドが協力になる or 子育てに投資するように生理的に変化するなどあるかもしれません。まだまだ妄想ですが。

 

翅の食い合い後に関する質問

17.

数回出産というのは、ペアになった年に何回か卵を生むということでしょうか?ペアになった翌年もその次も生むということでしょうか?

 交尾したその年に2~3回、その翌年以降も同じ位のペースで子を産むようです(卵胎生なので卵は産まず、ゴキブリの姿で母親から出てきます)。

 
18.
一夫一妻制と言われていますが、どうやって調べられたのでしょうか? 
途中で配偶者が亡くなった場合、再婚する可能性あるのでしょうか。
特にメスが多回交尾している可能性が気になります。

 一夫一妻であるだろうと推測されているだけなので、現在オーサキがマイクロサテライトマーカーを作成中です。

オスに出会うまでにメスが他のオスと交尾していない保証はまだないので、こちらも調べたいと思っています。しかし、もしメスが複数のオスと交尾しているのに、オスとメスが子育て(給餌)を同程度負担している(cf. 近縁種の先行研究 Shimada et al. 2011 )ということなら、これまでの研究と違ってまた面白いです。

1例しか確認できていないのですが、今年親がオス親のみだったコロニーを採集してきて、飼育中にメス幼虫が成虫になったのに気づかず放置していたところ、そのメスは翅がなくなり、その後平均の半数ほどの子を産みました。野外でもこれが起こるのかはマイクロサテライト解析しないと分かりませんが、シロアリのように子が欠員の出た親のポストに入っている可能性があります。

 

19.
交尾後に雌雄を引き離した場合どうなるでしょうか?
メスはそのまま個別飼育していればやがて子を産むと思います(上の回答参照)。しかし子の数は少なくなる可能性があります。
オスもメスも違う相手をあてがえばまた交尾する可能性があります。
 
20.
翅を食われた後の個体は素早くなったり、身体が大きくなったりの変化はあるのでしょうか。
昆虫は成虫になった後は体が大きくなることはないのですが、行動は少し変わる気がします。翅があるときよりなくなったあとの方が狭い隙間に潜りこむ習性が強化されるような印象です。
 
21.
交尾後に飛翔筋は退化しますか?
します。なので、翅の食い合いが飛翔筋溶解のcueになっている可能性は考えています。
 
22.
翅を食べた後の交尾行動、生殖器官の発達、出産などに必要な時間(日数)にパターンはありますでしょうか?
交尾は翅の食い合いの前に行われます。
生殖器官の発達は数個体しか見られていません(個体数が多く採れないので解剖に回す個体が確保できない)。しかし翅を食い合う前でも個体によってはある程度発達しています。
出産は交尾から約2ヶ月ほどです。
 
23.
交尾後も翅が食べられなかったら、別の相手とも交尾しようとしますか?
 この実験したことはありませんが、修論で翅を事前に切断しても交尾したので、翅の有無は交尾に関係ないのではと考えています。
 
 24.
すでに繁殖してるペアのコロニーに第三者が入ってきたらどうなるんですかね?
過去の研究(琉大の卒論・未発表)で、コロニーに別コロニーのオス成虫orメス成虫or幼虫を1頭入れてみる実験をしたものがあります。そこでは、侵入個体に対するグルーミングが増えただけだったそうです。「おまえはだれだ?(ぺろぺろぺろぺろ…)」という雰囲気のようです。
思うに、他個体が侵入してくるという事案が自然下ではほぼ起こらず、侵入個体を排除する行動がそこまで進化していないのかもしれません。
 
25.
翅を食べなければ産卵に至らないのでしょうか?
今実験しているところです。
 
26.
メスの翅を食べてないオスは子育てに参加しないとかありますか?
今実験しているところです。
翅を食われていないから子育てに参加しない、という可能性もあります。
 
27.
飛翔能力を失うことでの適応度の低下の影響は少ないのでしょうか。交尾相手を探したあとは不要になるのですか?
 おそらく飛翔分散して着地した後、もしくは相手を見つけた後は翅が不要になるのだと考えています。
シロアリでは着地した後に翅を自切し、それから配偶相手を歩行して探索するものが多いです。
 
28.
同じ木の中には1つのつがいしか見つからないのですか?
基本的に1朽木1コロニーですね。たまに朽木の両端に1コロニーずつ入っていることはあります。
 
29.
なぜ雄が交尾後再び別の雌を求めて移動しないのかという点が気になりました。雌雄ともに子育てをするということも両者が翅を食べあうこともその要因がわかれば説明できるような気がします。
オスが移動しないのは、2回目以降の交尾ができる確率がかなり低い状況にあるからではないかと考えています。 両親による子の保護が進化するときの淘汰圧として、2回目以降の交尾の成功率(相手と出会えるか & 相手に受け入れてもらえるか)は最もよく考えられるものの一つです。
しかし、だから翅の食い合いも即座に説明できるかというとそれはできなくて、翅を切り取るだけでなく、食うという意義も同時に考えなくてはいけません。また、翅を切るという行動がベネフィットをもたらしているのが切った個体へなのか、それとも切られた個体へなのか、ということも確認しなくてはなりません。食うことについても同様です。面白いです。
 

その他

30.
近縁のシロアリと生活史がよく似ていると感じました。シロアリはタンデムすると頃に翅を切り落としますが、その資源を確保して有効活用している印象です。
シロアリとの系統関係からの進化的な見解を聞かせてもらえると嬉しいです。

ゴキブリ目の中では、シロアリの属するキゴキブリ科とクチキゴキブリの属するオオゴキブリ科はかなり遠いです(最初の分岐で科が別れてしまう)。なので系統が近いからというより、朽木の中などの閉鎖的な空間に生息するという生態が似ていることからの収斂と考えられます。

 
31.
素朴な疑問なのですが、逃避行動用の尾葉は無いのでしょうか
 尾角(cercus)のことでしょうか。ありますよ。
しかしクロゴキブリなどのものより遥かに短く、小籠包がおしりに2つ乗っかっているみたいな感じです。尾角は空気の振動を受容する感覚器官で、逃避行動以外にも使われます。

f:id:h-fabre:20200602021625j:plain

ゴキのおしりの小籠包s

 

32.
同じく朽木食で子育てもするオオゴキブリでは翅は食い合わないのでしょうか?
 オオゴキブリが子育てするか、そしてするならばどの程度の子育てをするかについては、実のところはっきりと解明されていません。
そして、翅が短くなっていても、翅の断面がかじられた翅とは異なっているため、オオゴキブリでは翅の食い合いはされていないと考えています。
 
33.
対象種や近縁種のゴキブリについての詳しい説明があるともっと分かり易かったです。
例: 幼虫期間はどれくらい?、近縁種の生活史は?

日本にはクチキゴキブリが2種生息しています。

 

・エサキクチキゴキブリ:
九州〜屋久島に分布、短翅型でもともと飛べない、翅の食い合いもしないとされている
 
・タイワンクチキゴキブリ:
琉球列島以南に分布、長翅型で翅の食い合いをする
リュウキュウクチキゴキブリはタイワンクチキゴキブリの沖縄亜種)
 
2種は生態も非常に共通していると考えられ、唯一大きな違いは、成虫に飛べる翅があるかないかです。
 
基本生態(発表内容と重複あり):
幼虫期間は1〜2年、5, 6月に羽化、配偶後はペアでコロニーを創設、幼虫が1~3齢の間は口移しで給餌、同じ相手と数回繁殖、3年ほどは成虫寿命があると考えられる。
 
 

 回答を終えて

Q&A、コメント、事後アンケートでいただいた感想に紛れ込んでいた質問にも回答しました。
更に疑問をもったという方は、コメントやメールで質問いただければ、議論ができてオーサキが喜びます。
 
アンケートや感想を見ると、皆様に今後の進展が楽しみと思っていただけたようで、
一層頑張ろうと励まされました。
 
今後ともどうぞよろしくお願いします。
 
 
ちなみに、講演後に行った「ゴキ飼育ラボツアー」の動画は只今編集中です(慣れないので苦戦)。
完成したらオーサキのYoutubeにアップしますので、今しばらくお待ち下さい。